Monthly Report #000
京都体験カテゴリーにおける生成AIの回答傾向(2026年7月)
――3カテゴリ×4言語・240観測のベースライン
1. 要旨
本レポートでは、ChatGPTに対して「京都の茶道」「着物」「座禅」のおすすめを4言語でそれぞれ20回ずつ尋ね、回答中で引用された情報源を記録した(全12セル・240観測)。
分析の結果、AIがどの情報源を引用するかには、共通したパターンが見られた。このパターンは、主に二つの要素と対応関係にあると考えられる。
一つは、そのカテゴリに比較サイトやアフィリエイトが成り立つだけの市場があるかどうか。もう一つは、その言語でそうした情報源が整備され、AIが参照できる状態になっているかどうか。
この二つがそろっているセルでは、AIが比較メディアを引用する傾向が見られた。一方、どちらかが欠けるセルでは、事業者自身の公式サイトが引用される傾向が見られた。ただし本号は単一時点・単一エンジンによる横断観測であり、この対応関係はあくまで観測パターンと整合する仮説的な説明であって、因果関係を立証したものではない。
第0号(本号)は、この観測方法と評価指標を定義するベースラインである。今後公開する月次レポートでは、本号を起点(t=0)として、この構造がどのように変化するかを継続的に追跡する。
2. 方法
本調査では、ChatGPT(GPT-5.5・Web版)を一時チャット/ログアウト状態で利用した。
「京都+カテゴリ語+推薦語」を基本クエリとし、日本語・英語・簡体中文・繁体中文の4言語で観測を実施した。対象カテゴリは「茶道」「着物・和服」「座禅」の3種類である。
各クエリは20回(n=20)連続して実行し、回答中で引用された事業者名と引用元ドメインを記録した。あわせて、実行日時、実行地(京都市)、回線、モデル名も記録している。
引用元は、「公共」「自社」「OTA」「メディア」「ディレクトリ」「UGC」の6種類に分類した。記録は店舗単位で行い、集計はブランド単位で実施した。
なお、キーワード型(例:「京都 茶道体験 おすすめ」)と自然文型では、返される事業者に有意な差がないことを事前に確認している。そのため、本調査ではすべてキーワード型に統一した。
生データは data.csv として公開する(CC BY 4.0・無償公開・販売なし)。
適用範囲:本レポートが対象とするのは、推薦型クエリに対する回答のみである。比較型、取引型、指名型など、異なる検索意図では引用元が変わる可能性がある。
また、本号は単一時点における観測結果(t=0)であり、変化やトレンドを論じるものではない。それらは、第1号以降の月次データを用いて分析する。
さらに、本調査の対象は、ChatGPT(GPT-5.5)、単一観測者、単一実行地という条件に限定される。本レポートの結果を、そのまま他の生成AIや異なる実行条件へ一般化することはできない。
また、第3章で示す「カテゴリの商業性」「言語条件」「自己記述能力」の間の対応関係についての説明は、観測されたパターンと整合する仮説的な解釈であり、因果関係を立証したものではない。
本レポートでは、このような適用範囲をあらかじめ明示したうえで結果を解釈する。これは、単一の回答(n=1)から一般的な結論を導くのではなく、一定数の観測結果に基づいて傾向を評価するという、本調査の基本的な立場でもある。
3. 引用元分布
3.1 12セルの引用元・主導種別(構成比 %)
| 日本語 | 英語 | 簡体中文 | 繁体中文 | |
|---|---|---|---|---|
| 茶道 | 公共 52.2 | メディア 46.0(次点:自社40.0・差6pt) | 自社 40.6(次点:公共37.5・差3pt) | 自社 56.8 |
| 着物 | メディア 53.7 | メディア49.1+OTA30.9=約80 | 自社 54.8 | 自社 66.7 |
| 座禅 | 公共50.0+ディレクトリ23.5 | 自社80.2 | 自社49.5(次点:公共35.2・差14pt) | 自社43.4(次点:公共40.4・差3pt) |
(各セル n=20。分類基準は方法論付録に準拠。「次点」は2位種別との差分ポイントを示す。)
表3.1からは、三つの共通した傾向が読み取れる。
第一に、カテゴリの商業性が高いほど、比較メディアが引用されやすい。着物のように比較サイトやアフィリエイトが成立しやすいカテゴリでは、比較メディアが引用の中心となる。一方、無料の坐禅会が中心となる座禅では、そのような情報源はほとんど見られず、公共サイトや提供者自身の公式サイトが中心となる。
第二に、言語によってAIが参照できる情報源は異なる。日本語・英語の着物市場では、比較メディアがすでに一定数存在している。そのため、AIもそれらを引用する。一方、茶道では比較メディアがほとんど見られず、政府観光サイトや旅行メディアなどが引用の中心となる。
第三に、比較メディアが十分に存在しない場合は、公式サイトが引用されやすい。この傾向は、中国語圏および座禅カテゴリで特に顕著である。
中国語圏に共通する特徴:簡体中文・繁体中文を合わせた6セルでは、すべてのカテゴリで自社サイトが最も多く引用された。公共サイトや比較メディアが首位となるセルは一つも確認されなかった。
ただし、その優位性の大きさはカテゴリによって異なる。着物では、簡体中文(自社54.8%・公共17.8%)と繁体中文(自社66.7%・公共10.4%)のいずれも、自社サイトが大きく上回った。一方、茶道と座禅では差が小さくなる。茶道(簡体中文)と座禅(繁体中文)はともに約3ポイント差でほぼ拮抗し、座禅(簡体中文)は14ポイント差、茶道(繁体中文)は32ポイント差となった。「簡体は拮抗、繁体は優位」といった単純な二分法では説明できない。
3.2 ケース1:日本語の着物では、比較メディアへの集中が見られる
「京都 着物レンタル おすすめ」では、一つのランキングサイト(2025年開設、観測時点で約15か月運営)が20回中18回(90%)の実行で引用された。このサイトだけで、「メディア」種別(53.7%)の大半を占めている。一方、政府観光サイトの引用は相対的に少なかった。
この結果は、AI時代の可視性が、特定の目的に特化した比較メディアへ集中する可能性を示している。今後、このランキングサイトのシェアがどのように変化するかを、着物カテゴリの主要な観測指標として継続的に追跡する。
3.3 ケース2:中国語で質問しても、中国系プラットフォームは引用されなかった
簡体中文・繁体中文を合わせた6セルでは、小紅書、馬蜂窩、携程、大衆点評、微博、知乎など、中国系プラットフォームは一度も引用されなかった。
中国語で質問した場合でも、AIが引用するのは日本側の公式サイトや店舗の中国語ページが中心であり、一部では英語の Reddit も参照された。つまり、中国語話者がAIを利用した場合でも、主に参照されるのは中国語圏の情報ではなく、日本側が発信する情報である。
3.4 ケース3:簡体中文では、まだ説明できない観測が残る
一方で、この傾向だけでは説明できない観測も確認された。簡体中文には、中国系プラットフォームとは別に、AIが参照できる比較記事やランキング記事(一般メディアによる着物レンタル特集など)が存在する。
しかし実際には、簡体中文の着物カテゴリでは、自社サイト(54.8%)と公共サイト(17.8%)が引用の中心となり、こうした比較メディアは引用の主流になっていない。この結果は、「中国系プラットフォームが引用されないため、比較メディアも引用されない」という説明だけでは十分に説明できない。
現時点では原因を特定できないため、本レポートでは結論を留保し、今後の継続観測課題として扱う。
3.5 ケース4:座禅では、提供者自身の情報が最も引用される
座禅カテゴリでは、すべての言語で、寺院など提供者自身の公式サイト、または公共サイトが引用の中心となった。OTAやアフィリエイトはほとんど確認されない。特に英語では、自社サイトの構成比が80.2%に達した。
この結果は、比較メディアが十分に存在しないカテゴリでは、提供者自身が発信する情報がAIに引用されやすいことを示している。また、英語ページを持たない提供者は候補に入りにくく、多言語で公式情報を発信していること自体が可視性につながることも確認された。
4. 事業者の出現率(ブランド単位・頭部のみ)
本章では、回答中で実際に名前が挙がった事業者を対象に、その出現傾向を整理する。
なお、第0号で評価できるのは、頭部グループへの集中度までである。前号が存在しないため、月次変化については扱わない(差分は第5章参照)。また、第3章で分析した引用元分布と、本章で扱う事業者の出現率は異なる指標である。第3章が「どの情報源が引用されたか」を見るのに対し、本章では「どの事業者が回答中で名前を挙げられたか」を分析する。
着物:4言語すべての回答を確認した結果、ほぼ毎回名前が挙がる頭部グループ(約8事業者)が確認された。この頭部グループは、日本語・英語・簡体中文・繁体中文で大きく重なっている。一方、引用元の構成は言語によって異なる。日本語では比較メディア、英語ではOTAや旅行メディア、中国語では公式サイトが中心であった(§3.1)。つまり、言語によって変わるのは「どの情報源を経由するか」であり、最終的に紹介される事業者そのものは大きく変わらない。
座禅:4言語の回答を比較した結果、一つの事業者(内部管理ID)は、日本語・簡体中文・繁体中文で最も多く出現し、英語でも上位に入った。これは、比較メディアが少ないカテゴリでは、提供者自身が発信する情報が引用されやすいという§3.5の結果を、事業者レベルでも裏付ける結果となった。
茶道:茶道でも、約5事業者からなる頭部グループが4言語でほぼ共通していた。また、キーワード型と自然文型の違いによる大きな差も確認されなかった。着物と同様に、引用元の種類は言語によって変化する一方で、AIが実際に紹介する事業者は4言語で高い共通性を示した。
4言語で共通して見られた特徴:着物と茶道では、引用元の種類は言語によって大きく異なるにもかかわらず、AIが実際に名前を挙げる事業者は4言語でかなり共通していた。この結果は、言語によって変わるのは「どの情報源を参照するか」であり、「最終的に紹介される事業者」ではないことを示唆している。
第0号では、この重なりの存在をベースラインとして記録する。月次でどのような変化が起こるかは、第1号以降で継続的に追跡する。
5. 前号との差分
第0号は、本レポートシリーズのベースラインである。そのため、比較対象となる前号は存在しない。本号で示した結果を基準(t=0)とし、第1号(2026年9月)以降は、この基準からの変化を継続的に記録する。
6. ノイズフロアとの対照
同じクエリを20回繰り返した場合の、引用元集合の一致度(Jaccard係数)は以下のとおりである。
| 日 | 英 | 簡中 | 繁中 | |
|---|---|---|---|---|
| 茶道 | 0.25 | 0.20 | 0.31 | 0.25 |
| 着物 | 0.41 | 0.16 | 0.15 | 0.11 |
| 座禅 | 0.35 | 0.40 | 0.22 | 0.23 |
同じ質問であっても、引用元の半数以上は実行ごとに入れ替わる。
日本語・英語の茶道(0.247・0.204)は、Green et al. が報告した値(0.265)とも近い水準となった。この結果は、本調査で観測されたばらつきが、外部研究とも整合することを示している。
本レポートでは、このばらつきを「ノイズフロア」と位置付ける。月次の変化を評価する際は、この基準を超える変化のみを意味のあるシグナルとして扱う(詳細は付録A参照)。
したがって、1回の回答(n=1)だけから「AIはこう答える」と結論づけることはできない。引用元の構成比は、20回の観測によっておおむね±10ポイント程度まで収束する。一方、個々の事業者の出現率はばらつきが大きく、第0号では頭部グループのみを評価対象とした。
7. 付録
- A. ノイズフロアの測定方法と全データ
- B. 引用元6分類の定義(公共/自社/OTA/メディア/ディレクトリ/UGC)は本記事§2・付録Aを参照
- C. 生データ data.csv(CC BY 4.0・240実行・12セル × n=20・引用ドメイン単位で計1,023行)
次号予告(2026年9月):第1号では、第0号を基準とした初めての差分を報告する。特に、着物カテゴリにおける比較メディアのシェア推移と、§3.4で示した未解釈の観測について継続的に検証する予定である。
本記事は、個人による調査・情報共有プロジェクトであり、特定の団体・大学・企業等とは関係ありません。データはCC BY 4.0で無償公開しており、販売は行いません。